そんな事、あるわけないじゃない。

 それなのに、どうして私は、そんな事を考えてしまったのだろう?

 L事件特別捜査係であり、ただ一人個室を与えられているという彼の元へ案内する小楠に続きながら、真由は一瞬でもそう感じてしまった自分を、不思議に思った。

            ◆◆◆

 N県警捜査一課は、前触れもない修羅場に荒れたり荒れなかったりと、温度差が激しい場所である。

 昨日真由が挨拶に来たときは、全員が鬼のような形相で走り回り怒号も飛んでいたのだが、今日は半分以上が空席で、相変わらず資料やゴミが散乱しているものの比較的静かだった。窮屈な室内には、ゆったりとした時間が流れている。

 小楠の後ろをついて歩くと、そこに残っていたメンバーの視線が自然とこちらに集まってきた。昨日紹介された顔がちらほらとあり、皆が自分を「まさか彼女が」という顔で見送っていく気がする。

「…………警部。例の彼、本当に変わり者みたいですね?」

 真由が思わずこっそり口にすると、図星で返す言葉もないと言わんばかりに、小楠が重たい溜息を一つ吐いた。