「とうとう暴れ出してしまい、騒ぎを聞き付けた近所の方々も加勢に入ってくれました。けれど、本当に人間の力なのかと思えないほど、物凄い力で彼は私たちを振りほどくと、家を飛び出していってしまったのです……。慌てて夫と後を追いました、近所の人たちも協力してくれたのですが結局、その晩にはみつからず――翌朝に『自分で喉をかきむしって』死んでいる姿が見つかったのです」

 語り続けるカヨが、ぶるりと小さく震えた。

「お義母様は、精神病が出やすい家系なのだとおっしゃっていましたけど……何も語らない義父たちが帰った後で、夫は呪われているのだとこぼしました。一族の血を引いた者たちは皆、姿の見えないモノに名を呼ばれて話しかけられるのだ、と」

 でも詳しくは語らなかったのだと、カヨは少し掠れた声で続けた。君に不安を覚えさせてすまなかった、大丈夫なんだ、こちらが何も答えなければそれで済む話なのだ、だから忘れてくれ……と夫は落ち着きが戻った頃に、そう語ったのだという。