「僕に話してくれませんか? あなたが知っている与魄家の事を」
「…………何かあったんですね?」

 カヨは悲しそうに微笑んだ。その瞳が、何事かが起こってしまったのだろう、と尋ねているが、宮橋はそれについては何も答えなかった。

「私は嫁いできた身ですし、……亡くなった夫も寡黙な方で、実のところ一族の歴史を深く知っているわけではありません」
「あなたが現在までに、実際に見聞きしてきた事で構いません。そちらの方が、今の僕にとっては有益である」

 宮橋は、事前にどれほど調べたのかとは言わず、冷茶を半分ほど喉に流し込んだ。じっと見ているのも緊張を煽ってしまうのかもしれないと思って、真由も彼に習うようにグラスを手に取った。

 しばし思い返すような視線を縁側へと向けて、それからカヨは「私が見聞きした事……それでいいのであれば」と独り言のように口にして、テーブルへと目を戻して話し始めた。

「私は、二十歳に与魄家へ嫁いできました。夫の名は友之(とものり)。声を荒あげるなんて事をしない大人しい方で、お見合い結婚だった私に初めから優しくて、農作業以外はぼんやりとしているような人でした。時々声をかけても気が付かないくらい、のんびりとした人だったのです」

 亡くなった夫との日々を思い出したのか、語るカヨの目元が柔らかく細められた。けれど、それはすぐに曇ってしまう。