凸凹道をゆっくりと走行して十分ほど、一軒の家の前で車は停車した。そこは、低いコンクリート塀のある古い民家だった。

 家の敷地を囲う壁はかなり痛んではいるものの、きちんと手入れされて掃除も息と退いているのか、寂れたような様子はどこにもなかった。敷地内の右手には、青々と茂る桜の木があり、西に傾きだした太陽の光を浴びてこの葉を揺らせている。

「ふむ。やはり緑があると空気も違うな」

 高さの低い玄関の前に立ったところで、宮橋が満足そうに呟いた。

 蒸し暑さの中、心地の良い風が田園から吹いてきている。彼の隣でそれを感じていた真由は、玄関の引き戸を叩こうとした宮橋が、ふとこちらを見下ろしてきた事に気付いて「なんですか?」と尋ね返した。

「用件は手短にすませる。君は黙っていてくれたまえよ?」

 宮橋は、わざとらしい口調で告げてきた。どこかの探偵みたいな感じ、やめてくださいよ、と真由は目で指摘する。