「少し性格に難はあるが、どうか頑張って欲しい。彼に何かあった場合、宮橋財閥から何を言われるか分からんしな。特にあいつの兄貴が実に嫌だ――おっほんッ。本当に、そんな事は全く考えたくもない」

 つい私語をこぼした小楠は、顔をそらして口角を少し上げるばかりの苦笑を浮かべた。やれやれ、と芝居じみた仕草で、太い首元のネクタイを締め直す。しかし、自身の顔についた大きな裂傷痕に触れた際、彼は硬い表情をしてしまっていた。

 真由は父親の友人として以外の小楠を、よくは知らないから、訊きたいことは多くあった。

 まるでL事件特別捜査係の彼を心配しているみたいだ、と彼女は小楠の横顔にそんな事を覚えた。それを尋ねてみようと思ったのだが、彼が先に口を開いて、質問のタイミングを絶ってしまった。

「いいか。いつでもそばにいて一緒に行動しろ。絶対に、『一人にさせるな』」

 小楠はそう言葉を締めくくった。その『彼』が突然消えてしまうことを恐れているみたいだ、と問いかけようとした真由は、困惑しつつ部下として了解の意を示した。