「なんだ。アホ面を浮かべて」
「うわ~、相変わらず乙女に対して容赦がない一言ですね……」

 真由は呆気に取られて、気遣う事も忘れて言葉を返していた。すると、彼がこちらに手を伸ばしてきて、驚く間もなく親指で眉間をぐりぐりとされた。

「ちょっ、痛いですよ宮橋さん! 乙女になんて事をするんですかッ」
「うん、いつもの君だな」
「うぎゃっ、ついでみたいに前もぐしゃぐしゃにしないでくださいよ。一体なんですか――」

 自分よりも体温の高い指先が、おもむろに前髪を乱してきて真由は反論した。けれどその言葉は、続いた彼の次の台詞で途切れてしまっていた。

「だって、君はバカみたいに正直で、ずっと笑っているじゃないか。眉間に皺を浮かべたり、小難しそうな表情なんて似合わないぞ」
「へ?」

 思わず見つめ返してしまったら、宮橋が「ははっ」と自然な様子で笑った。「どうやら君は童顔らしいな、前髪で隠していなかったら子供みたいだ」と続けたかと思うと、自信溢れる顔でこう言い放った。

「行くぞ、橋端真由。君は今、僕のパートナーなんだからな。離れずに付いて来い」

 どうしてか、不意内のように胸の中に熱いモノが込み上げで、真由は自分でもよく分からないまま、反射的に「はい!」と元気いっぱいに答えていた。