それは、N高校の制服に身を包んだ一人の少年だった。鼻先から上は闇に包まれて霞んでおり、女性のように小さくふっくらとした厚みがある血色の赤い唇が、やけにハッキリと色鮮やかに浮かび上がって弧を描いている。

 背丈は、智久と全く同じくらいだった。けれど左右共に、手足の大きさや質感が違っていて、ややアンバランスにも思えた。まるで、首から下が『つぎはぎ』みたいだった。

「ああ、君だったんだね」

 思わず問いかけると、ソレの赤い唇が上品に微笑んで「トモヒサ」と、あの子供みたいな作りものじみた歪な声で呼んできた。

「トモヒサ、トモヒサ。僕、イル。ズット、一緒」

 少年の姿をどうにか取ったソレが、歩み寄ってこちらに手を伸ばしてきた。頬をなぞった指先は、死人のように青白く冷たくて、やけに分厚い黒い爪をしていた。

「トモヒサ、叶エル。ソシタラ、『向こう側』でズット一緒――うふふふふふふ、今度ハ失敗シナイ、大切、大事ニスル」

 赤い唇がにぃっとほくそ笑んだところで、智久の思考はプツリと途切れた。

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