その直後、唐突に静寂と虚無感が戻った。途端に身体から力が抜けていくのを感じ、智久はフェンスに身を預けていた。

(トモヒサ、トモヒサ)

 静まり返った胸の内側から、そんな問い掛けが聞こえた。普段の冷静さが、冷たく心地良く指先まで広がっていく感覚を追いながら、智久はゆっくりと視線を上げた。

 広々とした青い空が目に留まって、ああ長閑でキレイだ、と思った。自分と対話をしているだけなのに、先程あれだけ取り乱していた自分が不思議なほど、落ちつきを取り戻しているのを感じた。

(チョット、離レテタ。大丈夫、マタ少シだけ離レル、ケド、今度はスグ戻ル)

 不意に、強い眠気が込み上げた。身体を支えていられなくて、フェンスに押し付けた姿勢のままゆっくりと滑り落ちる。

 智久は、瞼が重くなっていくのを感じた。こんなところで眠ってはいけない。そう思うものの、その思考も静かな闇に沈んでいった。

(スグ、戻ルヨ、トモヒサ。スグ、スグニ……)

 閉じた瞼の裏に、何故か数日前の央岬誠とのやりとりが浮かんだ。彼は筒地山亮の親友で、一番暴力の加減を知らない男だった。