「あまり、そういう話は聞いた事がないですけど。ただ、昔に『神隠し事件』っていう大きなものがあったらしいですね。殺人事件が起こった館で、連続的に人が消えて、他にも何かあったような気がしますけど――」

 内容を深く知っているわけではない彼女は、途中言葉を切って、その事件を思い出そうとした。己の記憶力のなさに声量をやや落として、こう続ける。

「――なんでも、捜査員たちの目の前で、刑事の一人が腕を残して消えた、とかなんとか……?」

 自信がなかったので、真由はそこで口を閉ざした。

 学生時代に起こったその事件を彼女はよく知らなかったし、県警に入ってチラリと耳にした噂は、起承転結も曖昧だったのである。まさに怪談じみていて、話す同僚たちは、どれも「作り話だと思うけどね」と面白がっていたものだ。

 一瞬、小楠の肩が僅かに強張ったが、彼はそれを悟らせないように真由を振り返ってこう言った。

「まあ、警察の中にはそんな都市伝説があるな。本当かは知らないが」

 語尾をわざとらくし強め、そう前置きして小楠は続けた。