「皆さん。本日の放課後の講座と部活動は無しです。速やかに、真っ直ぐ帰宅しましょう」

 担任教師が、手短にそう告げてホームルームを終わらせた。智久は、生徒達がすぐに教室を出ず「事件のせい?」と騒ぐ中、初めて一人で過ごした屋上をもう一度見たくなって足を向けた。

 まだ鍵はかかっていなくて、屋上は風が通り抜ける音ばかりで誰もいなかった。しばらく高いフェンスの前に立って、どこまでも続く青い空を目的もなく眺めていた。

 普段なら心の中で「青い空だ」とぼんやり思うと、返答に似た思いの一つでも過ぎるのに、何一つ返ってこない事に気付いた。胸の内側には、やけに静寂が広がっているような気もして、つい手を当てて少し考えてしまう。

「これが普通なんだ、返事を期待するほうがおかしい」

 あれは、きっと話し相手もいない自分の、独り言みたいなものなのだろう。人は、一人で勝手に自問自答するものだ。ほとんど声を出す事もなくなってしまっていたから、いつからか癖になってしまったのだと思う。