「君が遅いからに決まっているじゃないか」
「だからって、スポーツ選手並みに走って置いていく事はないと思います!」
「ははははは、軽いジョークだ。突然走りたくなった」

 宮橋は悪びれもなくきっぱり答えると、「見たまえ、第四現場だ」とテーブルの上を見るよう促した。

「うげ」

 テーブルの上へと目を落とした途端、真由が下品な声を上げた。チラリと顰め面を向けた三鬼と、手の震えが不思議となくなった藤堂が苦笑するそばで、小楠が「真由君、露骨に『うげ』はないだろう……」と、つい友人の娘に個人的な思いを呟いた。

 改めて現場の写真を目に留めた宮橋は、広告を覗くような具合で「ふうん?」と顎に手を触れて首を傾げる。その際に、少し色素の薄い柔らかな髪が、長い睫毛に触れていた。

「ずいぶん荒々しく『散らかった』現場だな。被害者は、かなり恨みを買ったらしい」
「何か分かった事はあるか?」

 早速、小楠が訊いた。宮橋は感情の読めない瞳で上司を見やり「学生たちの情報は?」と問い返す。