続いて応接間の方から出てきたのは、彼女の夫である旧蒼緋蔵勝昭、現桃宮勝昭と、その後ろに少し恥ずかしそうに隠れている末娘のアリス。そしてそこには、先程まで談笑を楽しんでいた亜希子と緋菜の姿もあった。

「桃宮おじ様が、是非お兄様とお話がしたいそうよ」
「アメリカへ行く前に、話を聞きたいのですって」

 緋菜に続いて、亜樹子が片手を軽く振って、明るい調子で言う。

 蒼慶は、答える代りに短い息を吐いた。ちらりと目配せされた雪弥は、お前はどうすると問われているような気がして、慣れない合図に戸惑いつつも、兄から視線をはずして少し考えた。

 彼らにとっては遠い親戚にあたるし、それと同時に、会社を経営している者同士だ。恐らくは、社交上の付き合いもかねての茶会のようになるのだろう。そんな彼らの話の輪に加わるというのも、いささか自分には難しそうな気がする。

 よし、断ろう。

 雪弥は、物の数秒でそう決めた。この場をしのげる言い訳が、ちょうどいいタイミングでピンと浮かんで口を開く。