「そんなこと言われていませんよ。だって、青い目なんて『普通』でしょう」
「その通りだ」

 だから、と顔面を全く変えないまま蒼慶が、高圧的にくいっと顎を少し上げてこう続ける。

「今すぐ似合わないソレを取れ。不愉快だ」
「なんでその結論に達するんですか……。横暴過ぎませんか、兄さん」

 呆気に取られて、雪弥は唖然として見つめ返してしまっていた。

 その時、騒がしい足音が聞こえてきた。「ちょっとお母様」と少し慌てたような甲高い声がしたと思うと、応接間の大扉から紗江子が現われた。

「まぁ、こちらにいらしたのね」

 こちらの姿を見つけるなり、彼女が歩み寄りながらそう言って、穏やかな微笑みを浮かべた。父方に西洋の血が流れているせいか、よくよく見れば、丸い瞳は明く薄いブラウンである。

 目の前に立った桃宮婦人が、優雅に会釈をした。穏やかな眼差しを一度雪弥に向けて、それから蒼慶へと向き直った。