「兄さん、その――」
頭を下げようとした時、すぐ正面まで来た蒼慶が、こちらの湿ったネクタイを掴んで引き寄せた。突然の事態に「うわッ」と声を上げるのも構わず、奥歯で罵倒を押し潰すような皺を目尻に作って、口を開く。
「なんだ、これは」
たった二言、彼はそう言って睨みつけてきた。訳が分からないと視線を返したら、続けざまに更にネクタイを引き寄せて「これは、なんだ」と、先程より強く尋ねてくる。
雪弥はそこでようやく、蒼慶の色素の薄い鳶色の目が、真っ直ぐ自分の瞳を睨みつけている事に気付いた。今はファッション感覚でやっている人もいるから、珍しくはないはずだけれど、と不思議に思いながら答える。
「カラーコンタクトですよ」
すると、蒼慶の眉間の皺が、ますます深くなった。彼は怒りを押し殺した声で言う。
「あの食えん狸ジジィの言いつけか。黒のコンタクトをしろと、そう言われたのか?」
頭を下げようとした時、すぐ正面まで来た蒼慶が、こちらの湿ったネクタイを掴んで引き寄せた。突然の事態に「うわッ」と声を上げるのも構わず、奥歯で罵倒を押し潰すような皺を目尻に作って、口を開く。
「なんだ、これは」
たった二言、彼はそう言って睨みつけてきた。訳が分からないと視線を返したら、続けざまに更にネクタイを引き寄せて「これは、なんだ」と、先程より強く尋ねてくる。
雪弥はそこでようやく、蒼慶の色素の薄い鳶色の目が、真っ直ぐ自分の瞳を睨みつけている事に気付いた。今はファッション感覚でやっている人もいるから、珍しくはないはずだけれど、と不思議に思いながら答える。
「カラーコンタクトですよ」
すると、蒼慶の眉間の皺が、ますます深くなった。彼は怒りを押し殺した声で言う。
「あの食えん狸ジジィの言いつけか。黒のコンタクトをしろと、そう言われたのか?」