「水もキレイだったし、ちょっとかぶった程度です。帰ったらどうせ風呂に入りますから、僕はこのままでいいですよ。宵月さんの仕事を、色々と増やすわけにもいかないですし」

 だから風呂と着替えは必要ないと伝えたところで、雪弥は蒼慶の事を思い出した。外にいた亜希子と緋菜にも、この騒ぎが知られているという事は、すでにそれは二階の書斎室にいる蒼慶の耳にも入っている可能性が高い。

 しばらく考えた雪弥は、視線を落としたまま「あの、宵月さん」と、テンションの下がった声を発した。

「言いたい事は言ったし、このまま帰っちゃ駄目ですかね……?」
「桃宮様にご迷惑を掛けたまま、帰られるというのならオススメしませんね。後でお話しをしましょうと、そんな約束もされておりましたでしょう。そもそも、わたくしは蒼慶様から『帰すな』と指示を頂いております」

 そうだった。忘れかけていたが、彼は見張りのようなものである。