なんだ、これ。

 両腕を抑え込むようにして、ソファに腰を下ろした。理由も分からず混乱し、雪弥は必死に耐えていた。すぐそばに『人間』が立つ気配を鮮明に感じたが、顔を上げる事が出来なかった。

 今『人間(それ)』を目にしてしまえば、きっと自分はその人を殺してしまうだろう。何故かそんな予感が脳裏を掠めて、それを当たり前のように考えている自分に、余計に訳が分からなくなって浅い呼吸を繰り返す。


 殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺してやりたい。


 込み上げた衝動の言葉が、脳裏には流れ続けている。自分に向けて、無事を確認する宵月の台詞が理解出来ない。ただ、頭の片隅に残った思考が、宵月が人を呼ばない事だけを祈っていた。

 瞬きもせず凝視しているその瞳が、まるで勝手に獲物を探し出そうとするかのように疼いた。身体は冷え切っているはずなのに、両目だけがひどく熱い。

 全身の毛が逆立たった。頭髪までもが鳥肌を立てるのを感じて、戦闘モードに突入させてもいないのに、指先の爪が思考の制止を振り切って今にも飛び出してしまいそうになる。