特殊筋、当主の影、番犬……。

 あの時は、あの男が口にしていた言葉を頭の中に浮かべてみる。しかし、やはり一体なんの話をしているのか、今でもよく分からない。

 有り得ない動きをする異形の者を引き連れており、こちらが手足で壁を砕いたり爪で切断しても不思議がらず、喜ぶばかりで驚きはしなかった。他にも常軌を逸する存在は当たり前のように存在しているのだと、言わんばかりだった気もする。

 あの異形は、新しい人体実験の生物兵器なのだろうか。あんな風なモノは見た事がないのだが、特殊筋というキーワードが関わっているのか。

 そもそも、特殊筋というのは一体何なのだろう?

「…………『特殊筋』」

 思案に耽って、ついぽつりと呟いた。後ろで宵月が、僅かに顔を強張らせた事に気付かず、雪弥はあの男が『蒼緋蔵家の番犬』と、口にしていた事を思い返した。

 自分は一族とは距離を置いているし、何かの勘違いの可能性もあるけれど、兄か父に確認してみた方がいいのだろうか。考え続けても分からないキーワードであるし、ひとまず必要そうであれば尋ねる事を決めて、新聞紙を閉じた。