「ケーキと紅茶まで用意したお客さんって、誰なの?」
「桃宮財閥のご長女である奥様の名を与えられ、今年まで桃宮当主として立派に努められた、蒼緋蔵分家の者です。海外で新しい事業を始めるため、近い将来にある蒼慶様の当主就任祝いの席に参加出来ないとの事で、渡米なさる前にお会いしたい、と。午後には到着予定です」
「ふぅん、なるほどねぇ」

 雪弥は呟きながら、空になった皿に新しいケーキを移し入れた。

          ◆◆◆

  結局、昼食も食べられそうにないほどケーキと紅茶を堪能した亜希子が、昼食時間をずらす事を提案した。

 緋菜は、その時間まで兄がいるかどうか心配した。雪弥は「いるよ。実は少し、長居する事になって」と苦笑して答えてから、食後の運動をしないかと誘ってきた亜希子の新しい提案については、やんわりと断った。

 敷地内のテニスコートに出掛けた彼女達を見送ったところで、広すぎるリビングのソファに腰かけた。昔からスキンシップの激しいところがある二人と離れてようやく、ほっと肩から力が抜けた。

 運動は嫌いではない。むしろ身体を動かす事は好きだ。しかし、力加減が出来ず、もし二人に怪我をさせてしまったらと思うと、気は抜けない。