幼い頃、雪弥はふとした時に暖かい視線を感じた。その先には、いつも父の姿があって、普段はあまり動かない表情を優しげにほころばせて、いつも紗奈恵と亜希子を優しく見守っていた。そして、分け隔てなく三人の子供に愛情を注いだ。
「私たち、家族『六人で』、幸せな生活を送りたいだけだったのにね」
ふと、続けられた亜希子の言葉を聞いて、雪弥は持ち上げかけたティーカップを途中で止めた。一度ぐらつくようにして止まった手の中で、カップの中の液体が波打った。
亜希子は、遠い昔を眺めているような瞳を外に向けていた。風に揺れる薄地のカーテンが、太陽の光に照らされて、緋菜がその眩しさに目を細めている。
雪弥は、波が収まったティーカップを覗きこんだ。ゆっくりと、過去と現在を照らし合わせて、それからふっと、その口許に微笑みを浮かべた。
「今だって、十分に幸せですよ。ごたごたもなくすっかり落ちついて、兄さんなんて、もうじき蒼緋蔵家の当主だ。兄さんが父さんの仕事を本格的にサポートするようになってから、大分順調だと聞いているよ。父さんも、もうしばらくすればゆっくり出来るだろうし、緋菜もしばらくはこちらにいるだろうし――兄さんの事だから、ちょっとした仕事なら自分が出向くよりも、きっと相手を呼ぶと思うし、家族水入らずだ」
雪弥は、質の良い紅茶の香りを吸い込んだ。穏やかな眼でティーカップを見つめ、静かにそれを口に運ぶ。
「私たち、家族『六人で』、幸せな生活を送りたいだけだったのにね」
ふと、続けられた亜希子の言葉を聞いて、雪弥は持ち上げかけたティーカップを途中で止めた。一度ぐらつくようにして止まった手の中で、カップの中の液体が波打った。
亜希子は、遠い昔を眺めているような瞳を外に向けていた。風に揺れる薄地のカーテンが、太陽の光に照らされて、緋菜がその眩しさに目を細めている。
雪弥は、波が収まったティーカップを覗きこんだ。ゆっくりと、過去と現在を照らし合わせて、それからふっと、その口許に微笑みを浮かべた。
「今だって、十分に幸せですよ。ごたごたもなくすっかり落ちついて、兄さんなんて、もうじき蒼緋蔵家の当主だ。兄さんが父さんの仕事を本格的にサポートするようになってから、大分順調だと聞いているよ。父さんも、もうしばらくすればゆっくり出来るだろうし、緋菜もしばらくはこちらにいるだろうし――兄さんの事だから、ちょっとした仕事なら自分が出向くよりも、きっと相手を呼ぶと思うし、家族水入らずだ」
雪弥は、質の良い紅茶の香りを吸い込んだ。穏やかな眼でティーカップを見つめ、静かにそれを口に運ぶ。