緋菜が雪弥の言葉を遮り、亜希子が少し悲しそうに笑った。諦めたように口を閉じかけたものの、雪弥はやはり納得いかず、眉根を寄せて慎重に確認した。

「だってさ、ケーキと紅茶が都合良く用意されているなんて、変だよ」
「ううん、こっちはついでに用意したものなの。本当よ?」

 代わりに緋菜が答えて、肩にかかった髪を払い、真っ直ぐ雪弥を見つめて笑みを浮かべた。

「今日、宿泊のお客様がいらっしゃるの」

 その言葉に興味を覚え、雪弥は「へぇ」と呟きを上げた。亜希子が「あ、なんだか興味を示し始めたわね」と面白そうに言う。

 彼は亜希子の言葉を聞き流すと、緋菜に尋ねてみた。

「部屋が沢山あるのは知っていたけど、実際にそうやって泊まる人もいるんだね」
「蒼緋蔵は分家も多いから、遠いところからいらっしゃる方も、だいたい一泊していくわよ。お兄様だって、昔は二階の部屋を何度か、紗奈恵さんと使っていたじゃない」

 そう言って、緋菜は少し寂しそうに目を細めた。