「はぁ? 兄さん、どうして僕の上司を知っているわけ?」
「私は、あんな忌々しい狸大将みたいな野郎は知らん」
狸大将って……的を射ている。
つまり、めちゃくちゃ知っているじゃないか……というか、どうして兄が、ナンバー1を知っているんだ?
質問を投げかけようとしたものの、部屋の中から男達が話し出す声を耳にして、蒼慶が彼らとの話し合いを再開してしまったと知った。開きかけた口を閉じて、扉に添えていた手をどけた。
そのまま、ここを出て行くことは容易だったが、後が怖いので雪弥はその作戦を諦める事にした。肩を落として項垂れる後ろで、眉一つ動かさないままでいた宵月が「さて」と言う。
「一階へ参りましょう。美味しい紅茶を仕入れてありますので」
「まるで、はじめからこうなると分かっていたくらい、用意がいいですね……」
思わず扉に額を押しつけると、優秀な執事が「ケーキもご用意してあります」と、すかさず間違った方向のフォローをしてきた。こいつ、めちゃくちゃムカツクな、と雪弥は思った。
「苺とたっぷりクリームの物もございますよ。昔、よく『口に放り込んで』おられたでしょう」
「……あのさ。僕、もういい歳した二十四ですよ……」
「それから、チョコケーキもございます」
「…………」
こいつは、きっと僕の返答なんて聞いていないに違いない。子供じゃないんだから、と、雪弥は諦めた心境で口の中に呟きを落とした。
「私は、あんな忌々しい狸大将みたいな野郎は知らん」
狸大将って……的を射ている。
つまり、めちゃくちゃ知っているじゃないか……というか、どうして兄が、ナンバー1を知っているんだ?
質問を投げかけようとしたものの、部屋の中から男達が話し出す声を耳にして、蒼慶が彼らとの話し合いを再開してしまったと知った。開きかけた口を閉じて、扉に添えていた手をどけた。
そのまま、ここを出て行くことは容易だったが、後が怖いので雪弥はその作戦を諦める事にした。肩を落として項垂れる後ろで、眉一つ動かさないままでいた宵月が「さて」と言う。
「一階へ参りましょう。美味しい紅茶を仕入れてありますので」
「まるで、はじめからこうなると分かっていたくらい、用意がいいですね……」
思わず扉に額を押しつけると、優秀な執事が「ケーキもご用意してあります」と、すかさず間違った方向のフォローをしてきた。こいつ、めちゃくちゃムカツクな、と雪弥は思った。
「苺とたっぷりクリームの物もございますよ。昔、よく『口に放り込んで』おられたでしょう」
「……あのさ。僕、もういい歳した二十四ですよ……」
「それから、チョコケーキもございます」
「…………」
こいつは、きっと僕の返答なんて聞いていないに違いない。子供じゃないんだから、と、雪弥は諦めた心境で口の中に呟きを落とした。