開いたままの扉の先には、こちらが出てくるのを待っている宵月がいた。言う事は言ったし、そのまま帰ろうかな――そう考えながら、宵月のもとに向かって室内を出た雪弥は、不意に後ろから蒼慶の声が上がるのを聞いた。

「宵月、そいつをこの屋敷から出すな」

 その声を耳にした瞬間、思わず「はぁッ?」と素っ頓狂な声を上げて振り返った。いつの間に椅子から立ち上がったのか、扉の前には蒼慶が立っていて、一睨みされたかと思ったら、勢いよく扉を閉められてしまった。

 激しい閉音と共に、強い風が顔を打った。それからコンマ数秒遅れで、雪弥は慌てて遮られた戸を叩いた。

「ちょッ、待ってよ兄さん! 出て行けって言ったのに、なんで帰っちゃ駄目なのさ?」
「黙れ、決めるのはこの私だ」

 扉の向こうから、蒼慶が素早く言葉を返してきて、雪弥は続く文句を喉の奥に押し込んだ。十言った罵倒は、百になって返ってくるのだ。

「今すぐ退出する事は許さん。今日仕事が入っていない事は、お前の上司とやらに確認済みだ。もし今日中に戻ってくるような事があっとしても、ヘリに押しこんででも、こちらへ連れてこいと言ってある」