再び廊下を進み出しながら、死角さえ見当たらない完璧な君主という兄像である、蒼慶の幼い頃の事をぼんやりと思い返した。

 初めて会った時、彼は顰め面で無口だったが、好奇心多盛でドジな妹を守る、頼もしい兄だったのを覚えている。あの頃、雪弥が人見知りをして母の影に隠れている中、走り回る妹に付いて、あちらこちらを行ったり来たりしていたものだ。

「う~ん、あの頃はまだ可愛げが――あ、いや、やっぱりないな。うん、使用人を顎で使っていたし……」
「何かおっしゃいましたか?」

 足音ばかりの静かな廊下に、その独り言と宵月の問いが響き渡った。絶対聞こえていただろうと思いながらも、雪弥は「なんでもないです」と言って溜息を吐いた。

 右側の壁に、窓と絵画が交互に並んでいる廊下が、しばらく続いた。左側には時折、デザインが微妙に異なる扉が現れては、進行方向とは逆の方へと遠ざかっていく。

 窓から差し込む日差しで廊下は明るく、二人の革靴音だけがコツコツと響いていた。それからしばらくすると、宵月が金細工の装飾が施された扉の前で立ち止まった。