「顔を合わせるのも、お嫌ですか?」
「それもあるけど、……僕がここに足を踏み入れた、なんて事が分家の人達に知られたら、またあの頃みたいに父さん達が、あれやこれやと色々言われるわけじゃないですか。…………父さんや兄さん達を、困らせたくない」

 雪弥は、まるで自分がここにいたくない理由を探しているような気もしてきて、言葉を切った。蒼緋蔵家の人間に会いたくない事を、父達を言い訳に遠ざけているだけではないのかと、そんな事を思ってしまう。

 チラリと見つめ返してみたら、質問をどうぞ、と言わんばかりの宵月と視線がぶつかった。

「……これもまた、兄さんの指示なんですか? 来客中であっても通せと?」
「はい。次期当主、蒼慶様がお決めになった事です。『客人が先にいるが構わず中へ引き入れろ』、との事でした」

 つまり、当初から来客の予定が入っていながら、自分を迎えに行かせたのか?

 雪弥はしばらく悩んだ。よく分からないけれど、そもそも兄の考えている事を理解するのが難しいのだ。だから、このまま書斎室へ向かう事を決めた。ここで断ってしまうと、あとが怖いような気もする。