宵月は、そんな彼から視線をそらすと、背筋をぴんと伸ばしたまま歩き出した。つられて歩き出そうとした雪弥は、彼の次の言葉を聞いて、完全に足を止めた。


「お相手は、蒼緋蔵家の縁者の方々です」


 え、という声も出なかった。
 脳裏に浮かんだのは、幼い頃から母が他界するまで見てきた親族達との記憶だった。それを思い返した彼の口許には、自然と皮肉気な笑みが浮かんだ。

「…………兄さんは、僕が嫌われていると知っていて、わざと彼らと鉢合わせをさせるつもりなんですか?」

 もしそうだったとしたら、来て早々とんでもない嫌がらせだ、と雪弥は低く呟いた。タイミングとしては、まるで計ったかのように最悪である。
 
 少し先まで歩いた宵月が、立ち止まって、そんな雪弥をじっと観察するように見つめた。

「雪弥様は、蒼緋蔵家の人間が、お嫌いですか?」

 しばらくして、囁くように宵月が尋ねてきた。雪弥は、顰め面で視線をそらすと「好きじゃない」と、拗ねるようにして正直に答えていた。