「昼食ぐらいは、食べて行くでしょう?」

 それは押しつけではない、切実な母親としての希望だった。もう十数年、共に食事を取っていない。

 最後に皆で食事をしたのは、いつ頃だっただろうか。そこには幼い自分がいて、彼の母の姿があって――それすら、もう随分昔なのだと、雪弥は今更のように気付いた。

「兄さんと話してみて、その……タイミングがあえば」

 だから、ぎこちなくそう返した。彼女達を思えばこそ、長居する事は出来ない身だ。迷惑はかけられないと思う。

 亜希子は、その言葉と表情で察したのか「仕方ないわね」と吐息をこぼした。

「お兄様、昼食ぐらい、食べて行って?」

 緋菜が、小首を傾げつつ尋ねてきた。雪弥はとうとう何も答えられなくなって、困ったような優しげな微笑を妹に返すと、その場を後にするように宵月の後ろを歩き出した。