ナンバー1は、遠い場所の買い物を頼む割りに「早急に帰って来い」と言ったりする。他のエージェントに頼めよ、と返せば「お前に頼んだ方が早いから嫌だ」とわがままを言ったりした。全く、とんだ上司を持ったものである。

「まぁ、上司って大半がわがままだから……」

 思い出しながら、雪弥はそう相槌を打った。その視線がそれされた横顔を見て、緋菜が愛らしい瞳を潤ませた。

「お兄様、苦労されているのね。お可哀そう……」

 亜希子が、とうとう堪え切れない様子で「ふふっ」と小さく笑った時、静かに見守っていた宵月が「雪弥様」と声を掛けた。彼が振り返ると、続いて亜希子と緋菜を見やって淡々と口を動かす。

「雪弥様は、蒼慶様と大事なお話しがありますので、この辺りで失礼したいのですが」
「あら、そうだったわね」

 亜希子は思い出しように言うと、雪弥に視線を戻して、少し弱気な笑みを浮かべた。緋菜が「お母様。雪弥お兄様は、蒼慶お兄様となにかお話があるの?」と尋ねる声には答えず、遠慮がちに言葉を続ける。