雪弥は何も答えられなくて、困ったように微笑んだ。浮かぶ言葉は、いつも『ごめんね』だ。けれど、またしても彼女を泣かせるかもしれないと思ったら、それを口にする事は出来なかった。

 そんな彼の様子を見て、亜希子が助け舟を出すように、母親らしい笑みを浮かべて自分の腕にしがみついている緋菜を呼んだ。

「緋菜、駄目よ。雪弥君は、自分の力で生活しているのだから、仕事だってとても大切なのよ。それは分かるでしょう?」
「でも、お母様……こんなにお休みもなく頑張っているのに、お兄様が今でも普通のサラリーマンなんて、ひどすぎるわ。あっちこっちに仕事で行かされるなんて、まるでパシリじゃないの」
 
 あ、確かに。

 雪弥は、つい心の中で呟いて、ぽりぽりと頬をかいた。簡単な仕事であると、帰りがけにナンバー1に買い物を頼まれる事も多い。一番面倒なのは「お前今K県にいるな。よし、じゃあ隣のA県にいって、あの名産品を買ってこい。私は今すぐそれが食べたい」という注文である。