「お兄様ったら、まずは他に言う言葉があるでしょ?」

 そう強く言いながら足を進めてくる華奢な女性は、妹の緋菜だった。長い黒髪を背中に流した日本美人で、亜希子に似たハッキリと整った小さな目鼻立ちに、怒っても怖さを覚えない、可愛らしい大きな黒い瞳をしている。

 今年で二十三歳になるのだが、童顔であるため十代後半に見える。それでも、彼女が絶世の日本美人である事に変わりはなく、年頃になってからは求婚も絶えないらしい。

 以前、亜希子が「うちの娘は、自分で結婚相手を探すから他を当たりなさい!」と一喝したという話を、雪弥は緋菜の成人式の日に聞いた。緋菜自信も、困ったように「会った事もない女の子に、いきなり求婚の手紙を寄越するのも、変よねぇ」と呟いていたものだ。

 緋菜は、母である亜希子のような気の強い感じはない。大抵は怒っていても可愛らしいのだが、今回は少し違っているようだ。ずっとこちら睨みつけている。