「本当、こうして会うのは久しぶりね。お帰りなさい、雪弥君」

 亜希子はそう言って、雪弥の頭にぽんぽんと手を置いた。

 昔から、ずっとこの調子である。雪弥は少し、くすぐったそうに彼女の手を見て、そこからぎこちなく離れた。

「僕が『ただいま』というのも、変でしょう?」
「あら、そんな事ないわよ。だって、ここがあなたの家ですもの」

 亜希子は、持ち前の明るい性格が覗く表情で、あっさりそう言い切った。けれど、ふっと懐かしそうに目を潤ませたかと思うと、ぎゅっと抱きしめ直してきた。それはまるで、母親が息子にするような優しい抱擁だった。

 雪弥は、母の紗奈恵の事を、当主と同じくらい愛していた彼女を思い、されるがまましばらくじっとしていた。亜希子の柔らかなショートカットの髪が頬に触れ、甘い香水の香りが自分の中に広がるのを、ぼんやりと感じていた。

 反応も返さされないまま、亜希子の細い腕には更に力がこもった。彼女は、すっかり大きくなった彼の肩に顎を乗せるようにして、ぎゅっと抱きしめる。