後ろで玄関扉が閉められて、どぎまぎしながら足を止めた時、正面奥にあった横幅の広い階段の上から「まぁ!」と、ひどく驚いたような甲高い声が上がった。

「雪弥君じゃないの、待っていたわよ」

 そう言ったのは、現当主の正妻である亜希子だった。しっかり者の猫のような目をした美人顔に、嬉しそうな笑みを浮かべて階段を駆け下りてくる。

 彼女は最後に見た時と変わらず、ショートカットの艶やかな黒髪をしていて、身体のラインが見える品のある服を着ていた。相変わらず若づくりだなぁと思って見つめていると、ヒールで駆けてきた勢いのまま抱きつかれてしまい、加減を調整してその身体を受け止めた。

「お久しぶりです、亜希子さん」

 慣れたように優しく引き離しながら、雪弥はぎこちなく笑って声を掛けた。

 亜希子は「親子の再会なのに、感動が薄いわねぇ」と、すねたような表情を作った。しかし、すぐ顔いっぱいに笑みを浮かべると、成人式以来に見る彼の顔を、目に焼きつけるようにまじまじと見つめた。