「人が持っているはずがない色素、というやつだったか」
「この世のどこを探しても、他にはない色でしょうね。肉体の外的成長の遅さに対して、体内では変化が続いている――通常なら自身でも異常を感知して、精神的に不安定になってもおかしくはないのですが、彼の精神は『ひどく安定』しているんです。異常なほどの殺戮衝動が強まるにつれて、彼自身が安定へと向かっている……なんだかそう思えて、少しだけ恐ろしいです」

 彼女は、そこで言葉を切って男を見やった。彼は難しい表情を浮かべて、印刷された数値とグラフを見つめている。

 しばらく、二人の間には重々しい沈黙があった。意見が返ってこない様子を見て、女性が「ナンバー1」と吐息混じりに声を上げた。彼は「なんだ」と返すものの、それでも視線は忙しそうに印刷面を追っていた。

「これだけ変化が現れていて、彼自身が気付いていないというのもおかしくはないでしょうか。だって、これでは、まるで変化の後こそが当然というような……。あなたは『極秘で調べて欲しい』とおっしゃいましたが、一体、彼は何なのですか?」