玄関の内側には、赤い高級絨毯が敷かれた場所が広けていた。西洋風に土足で上がる形式の家となっているのだが、絨毯外の大理石の床も磨き上げられていて、高い天井には豪勢なシャンデリアも見える。

「これがホテルのロビーでもなく、家というのもなぁ……」

 思わず足を止めて呟くと、その横で宵月が「どうぞ、その足をお上げください」と促してきた。幼い頃、母の紗奈恵と共に出て以来だった雪弥は、恐る恐るもう数歩進んだ。

「お、お邪魔しま~す……」

 ぎこちなくそう口にしたら、隣から宵月の「ご自身様の実家でございますのに」という指摘が聞こえてきた。そんな事を言われても、どこからか蒼慶の説教の声が飛んできやしないかとドキドキして、初めての場所を訪れた猫みたいに臆病になってしまう。

 蒼緋蔵邸の本館は、改装されて少し物の配置が違っているだけで、あの頃とあまり変わりはないようだった。綺麗に磨かれた窓ガラスからは、太陽の眩しい光が差し込んで室内を明るく照らし出している。