本館自体が、美しいデザインの彫刻がされている事もあって、玄関前だけで美術館顔負けの光景を作り出している気がする。しかし、振り返った先に見える第二の門扉の高い塀には、犬とも狼とも取れない禍々しい生き物の銅像もあった。

 それは凶悪なほど鋭い牙をむき出しにし、入って来る人間を睨み降ろすようなデザインがされていた。今にも噛み殺そうと言わんばかりに大きな口を開け、鋭く大きく突き出た爪が、今にもこちらに振り降ろされんばかりの迫力である。

「う~ん、なんだかちょいちょい、客人を怖がらせる置き物があるんだよなぁ」

 雪弥は、宵月が蒼緋蔵邸の玄関の大扉を開ける中、玄関前の広場に立ち尽くしたまま首を捻った。古い時代から、この一族は西洋文化を取りこんでいるというし、だから悪魔を模したような像やデザインも、たびたび見受けられるのだろうか。

「雪弥様」

 玄関扉から声を掛けられて、雪弥は思考を中断すると「ああ、うん」と曖昧に返事をした。こちらを待っている宵月へ目を留め、唯一持ってきた荷物の一つである携帯電話が、スーツの内側のポケットに入っていることを無意識に確認しながら、辺りを見回しつつよそよそしく足を進めた。