だから、もうあそこへは行けないわ、と泣きそうな顔で告げられた時は反対しなかった。家族なのに一緒にいられないんだね、という率直に感じた疑問の言葉は返さなかった。こちらを抱き締めた母が、小さく震えていたからかもしれない。

 車窓から外を眺めたまま、ぼんやりとした表情で当時を思い返しながら、雪弥は「僕も嫌いだったな」と口にした。刺すような殺気が溢れ始める中、彼の開いた瞳孔がハッキリと深い蒼の光を灯す。

 嫌でも覚えている。そして、嫌でも思い出す。

 頭の中は、まるで自分ではないように、勝手にくるくると回想を続けて『敵』の顔を脳裏に浮かべさせた。

「…………ああ、そうか、あいつがいたな。玄関先で、母さんの髪留めを叩き落とした議員の男。あれが、初めて見た分家の人間だった。僕はあの時、本当はあの汚らしい指を全て切り落として、あの腕ごと引きちぎれたら、どんなにいいかと考え――」
「雪弥様」

 強く制止する声が上がり、低い声色で続けられていた言葉が途切れた。