「兄弟ってのは、そんなものだろう。あいつは、結構したたかだけどな」

 さて、どうなるのやら、と彼は今回の物騒な一件を思って呟く。
 蒼慶は「そうだったな」と相槌を打つと、強さの戻った眼差しを上げた。手に出来た『秘密』の一つである本を引き寄せる。

「まずは、副当主という『役職』に、番犬という呼ばれ方が生まれた時代を探し出す」
「お前の推測がただしければ、その時代前には、身体能力が異常に高い・瞳が青い・やけに短命であった、とされる本家男子はいなかったという事だよな。んでもって、この一族から『消えた役職』があると推測しているんだったか?」
「今日で確信に変わりつつある。偽物の紗江子が口にした『緋の字を持った術者』というのが、きっとキーワードなんだろう。恐らくそれが関わっているはずだ」

 言葉の応酬には、駆け引きも必要だ。何もかも知らない状態だと思ったら、大間違いである。現当主が口を割らず、本当に全ての『秘密』知らないとしても、その輪郭や一端くらい、必死になれば僅かながらにでも掴む事は出来る。

 我ながら性に合わない台詞だったな、と、蒼慶は緊迫していた状況下で、紗江子とやりとりした一部分を振り返ってそう呟いた。


                     了