「一体何者が、どういう風に動いているのかは分からんが、まんまとハメられた気がしないでもない。まったく、アレにも困ったものだ。本当に馬鹿で、単純で、阿呆だ」
「おいおい、そこまで言わんでも……」

 言いかけたナンバー1の言葉を、蒼慶が珍しく悩む表情で「一つ、訊いてもいいか」と遮った。物音のない扉の向こうに耳を澄ませると、宵月が戻ってこないのを確認してから、ふいと視線をそらして、窓の向こうの月明かりに目を細める。

 質問の言葉は、すぐには出されなかった。ナンバー1は、こっそり溜息をこぼしたものの、それでも急かす事なく待っていた。

「……昔、まだ執事ではなかった宵月が、雇ってほしいと直談判で通っていた時期があった。何度目かの訪問で、雪弥(おれのおとうと)の事を知りもしない癖に、俺の足元にも及ばない愛人の子がいるらしいが貴方様こそ素晴らしい、という立て方をされて、初めて人を殴った。貴様なぞいらん、と激昂を起こしたのはあれが最初だった」