「僕は、蒼緋蔵邸に戻ってはいけない、という気がしているんです。僕だけは、あそこにいてはいけない。父さんや亜希子さん、兄さんや緋菜がいて、宵月さんがいて……でも、僕は駄目なんだ。きっと、他の人達が黙っていない」
大切な家族だ。いつだって穏やかな幸せを祈って、遠くからでもそれを守り続けたいと思っている。だから、そばにはいられなかった。自分が正妻の子じゃないからという理由だけで、拒絶している親族達がいるからだ。
それはどこか正論で、そして『取っ払ってしまえば』なくなる『邪魔者』でもあった。
風景を眺める雪弥のコンタクトで黒くされた冷たい瞳が、その色素の下で淡く光って、瞳孔の周りを蒼(あお)が揺らいだ。風もないのに、思考に耽る彼の柔らかな髪がざわりと波打って、車内に異様な緊張が張り詰めた。
「僕は出来れば、蒼緋蔵家とは関わりたくない。妬み、嫉妬、強欲、非難する多くの目を、母さんはとても怖がっていた。『お姉さん』と大切な家族が増えて嬉しいと言っていたのに、分家の人達に拒絶されるのが、とても辛そうで」
大切な家族だ。いつだって穏やかな幸せを祈って、遠くからでもそれを守り続けたいと思っている。だから、そばにはいられなかった。自分が正妻の子じゃないからという理由だけで、拒絶している親族達がいるからだ。
それはどこか正論で、そして『取っ払ってしまえば』なくなる『邪魔者』でもあった。
風景を眺める雪弥のコンタクトで黒くされた冷たい瞳が、その色素の下で淡く光って、瞳孔の周りを蒼(あお)が揺らいだ。風もないのに、思考に耽る彼の柔らかな髪がざわりと波打って、車内に異様な緊張が張り詰めた。
「僕は出来れば、蒼緋蔵家とは関わりたくない。妬み、嫉妬、強欲、非難する多くの目を、母さんはとても怖がっていた。『お姉さん』と大切な家族が増えて嬉しいと言っていたのに、分家の人達に拒絶されるのが、とても辛そうで」