静まり返った蒼緋蔵邸に、雪弥と入れ違うようにして黒服の男達がやって来た。二名分の死体と、破壊された場を片付けるため、彼らは無駄のない動きで迅速に各々の作業に取り掛かっている。

 現在は、深夜だ。

 亜希子や緋菜が眠る寝室前には、奇妙な面をかぶった二人の少年が立っている。彼らは、彼女達の意識が戻っていない事を伝える係りだった。

「アレは、もう行ってしまった。だから、ここにはいない」

 自身の書斎室の椅子に腰かけていた蒼慶は、物想いに耽る様子で窓の向こうの月を眺めやった。電気もつけられていない部屋で、書斎机に置かれている古びた本へと目を戻す。
 月明かりが照らし出す室内には、応接席のソファにブラック・スーツを着込んだ大柄な男が座っていた。それは雪弥の上司であり、つい先程到着した特殊機関のトップであるナンバー1である。

「まぁ、それは分かっとる。雪弥にはプライベート時だろうと、直属の部下である暗殺部隊員が必ず数人ついているからな。――おい、そこで睨むなよ」
「使えない部下だな、と思っただけだが?」