崩れ落ちそうになった膝が地面につくよりも早く、今度は彼女のスカートから覗く足が『消え』ていて、背中から地面に落ちる直前には、呆気なく腕が『余所に飛んでいって』しまっていた。

 それを柱のそばから見ていた紗江子の顔は、すっかり蒼白していた。

「こんなこと、聞いてない。番犬候補にしては『あまりにも普通の子』だって、夜蜘羅様もおっしゃっていたじゃない。それなのに、どうして正常でありながら、あんな狂った残虐な『狩り』をしているのよ……まさか、私達ただの使い捨ての餌に寄越されたんじゃ……」

 彼女が、ぶるぶると震える身体を柱に寄りからせて支えながら、親指の爪をガチガチと噛んで一人呟く。

 歩み寄った雪弥が、倒れ込んだアリスを見下ろした。虫の息だった彼女が、苦痛と屈辱に呻いて「番犬ッ」と怨念のこもった声で吠えた。

「畜生このクソッタレめ! 俺の手がッ、俺の脚が! あんな離れた場所に……!」

 ごぼっ、とアリスが苦しそうに咳き込んだ。噛みしめた唇から血を流しながら、先程叩きつけられた際に折れた背骨で、どうにか起き上がろうとしてもがく。