「……僕は、君と顔を合わせた覚えはないんだが?」
「はいはい。んでもって、大抵はその台詞が返ってくるんだよな。『前の俺』もそんな中途半端な人間野郎に、しかもトドメのところで、ただの剣で倒されたってのが、非常に気に食わねぇわけだが」

 雪弥を真っ直ぐ見つめる赤い瞳は、獲物を狩りたいとする獰猛な獣の殺気に溢れていた。

「まぁいいよ。俺だって『今の時代』は理解している。自分を隊長だとか言って時よりもマシだし、どうせお前も、そこにいる奴らも、この俺に殺されるんだからな。――こっちを終わらせたら、この敷地内にいる人間全員、死刑だ」

 赤い瞳が、ぎょろりと一回りして、再びこちらを向く。

 それ見て、全身がざわりと総毛立った。言葉としてハッキリ害をなすことを告げられて、冷静でいられるはずがない。

「たかが一冊の本だけで、勝手に死刑執行させてたまるか」
「ハッ、いいねぇその顔。もそもそな論点は本じゃないんだぜ、これは戦争なのさ。人間側の表立った争いやら平和の下で、ずぅっと続いている領取り合戦だ。共存なんて無い。俺らは人間に抑圧されるのなんてまっぴらごめんだし、食いたいし、殺したい」

 またしても、よく分からない事を言われる。けれど、向けられている殺気が一気に膨れ上がり、敵の全神経が戦闘に入るのを察知した雪弥は、睨みをきかせて咄嗟に身構えていた。