「私が思う特殊筋は、一族の血に宿った『物語』を明確に持った子ね。その中でも稀に、戦争の歴史の当事者として存在し続けているモノもある。たとえば、この旧藤桜家で伝えられている、一族の器を使って蘇る魔物『桜木の精霊物語』も、そう」
「蘇る、だと?」
「蒼緋蔵家の次期当主様は、本当に何も知らないでいるのね。特殊筋の一族の血が受け継ぐのは、性質的な異常だけではないのよ。形のない魔物だっている。――旧藤桜家の『桜木の精霊物語』の異名は『獰戯(どうぎ)』。とってもやんちゃで残酷なの」
そう続けた彼女が、ふっと笑みを消した。
「そろそろ出てきなさい、獰戯。怯える顔が好きな貴方の悪趣味もあるでしょうけれど、今は夜の時間よ。いつまでもアリスの意識を、残しておかないで」
獰戯、という呼び掛けを聞いた瞬間、アリスの顔から表情が聞こえた。その目が大きく見開かれ、震える両手をゆっくりと持ち上げながら頭上を仰ぐ。這い上がるかのような動きをする手の先の爪が、ぎちぎちと音を立てて伸び始め――
次の瞬間、アリスの瞳に、獰猛な獣の殺気が宿った。同一人物だと思えないほど、その顔に怒りと増悪に染まった表情が刻まれたかと思うと、前触れもなく咆哮した。
「蘇る、だと?」
「蒼緋蔵家の次期当主様は、本当に何も知らないでいるのね。特殊筋の一族の血が受け継ぐのは、性質的な異常だけではないのよ。形のない魔物だっている。――旧藤桜家の『桜木の精霊物語』の異名は『獰戯(どうぎ)』。とってもやんちゃで残酷なの」
そう続けた彼女が、ふっと笑みを消した。
「そろそろ出てきなさい、獰戯。怯える顔が好きな貴方の悪趣味もあるでしょうけれど、今は夜の時間よ。いつまでもアリスの意識を、残しておかないで」
獰戯、という呼び掛けを聞いた瞬間、アリスの顔から表情が聞こえた。その目が大きく見開かれ、震える両手をゆっくりと持ち上げながら頭上を仰ぐ。這い上がるかのような動きをする手の先の爪が、ぎちぎちと音を立てて伸び始め――
次の瞬間、アリスの瞳に、獰猛な獣の殺気が宿った。同一人物だと思えないほど、その顔に怒りと増悪に染まった表情が刻まれたかと思うと、前触れもなく咆哮した。