「とくに染めてはいないですよ。昔から、こんな色じゃなかったですかね」

 色素の薄い自分の前髪を指先でいじる。そんな雪弥を、宵月はバックミラーでチラリと見やると「そうですか」淡々として言い、再び視線を前に戻して別の質問を投げかけた。

「十数年ぶりの蒼緋蔵家の土地は、いかがですか?」
「特に変わってないなぁというか、こんなに田舎だったんだなぁ、とか?」
「約二十年、離れていた土地ですからね」

 わたくしが貴方様と、初めてこちらでお会いした時は、今より約二十歳も若かった――

 宵月が、思い出すように口の中で小さく言った。雪弥は「そうだったかなぁ」と言って首を傾げたところで、今回の帰省についての家族の反応を思い出し、つい苦笑を浮かべてしまった。

「電話でも、父さんや亜希子さんが、ようやく来てくれるって言って喜んでくれたけど、正直、僕にはそんな実感はなくて。二年前の緋菜の成人式の会場でも、少し顔を見せる事は出来たし」