桃宮が完全に絶命してしまうと、歪な長い凶器は、その身体を払い捨てて闇の向こうへと一旦引っ込んでいった。顔を強張らせつつも、宵月が主人の前に腕を伸ばして警戒を強めた。
蒼慶が、奥歯を噛みしめた。自身の憤怒を抑えるように吐息をこぼしてから、低い声で「出て来い」と告げた。
「あらまぁ、蒼緋蔵家の男子だとは思えないくらい、戦い慣れていないみたいな反応ねぇ。随分可愛い次期当主だこと……うふふふ、震えてらっしゃるの?」
そう闇の中から声が上がった時、紗江子が優雅に歩み出てきた。彼女はその顔に微笑をたたえたまま、数メートル先に転がった『夫』の死体には目もくれない。
真っ直ぐ目が合って、にこりと微笑みかけられた。本能から『敵である』と分かっているのに、殺意も敵意も感じなくて、どうして、という言葉だけが雪弥の中に浮かんでいた。
彼女の姿を認めてすぐ、蒼慶が「やはりな」と呟いて喉の奥で笑った。
「蒼緋蔵の分家・桃宮勝昭は、旧藤桜家、現在は桃宮家と呼ばれている名家の長女と婚姻を結んだ。名が変わったのは、藤桜家の中から『特殊な血筋の兆候』が現れる者がいなくなったとして『血の呪い』は絶えたとされたから――だったが、皮肉にも藤桜の血統を引く娘が誕生したか」
蒼慶が、奥歯を噛みしめた。自身の憤怒を抑えるように吐息をこぼしてから、低い声で「出て来い」と告げた。
「あらまぁ、蒼緋蔵家の男子だとは思えないくらい、戦い慣れていないみたいな反応ねぇ。随分可愛い次期当主だこと……うふふふ、震えてらっしゃるの?」
そう闇の中から声が上がった時、紗江子が優雅に歩み出てきた。彼女はその顔に微笑をたたえたまま、数メートル先に転がった『夫』の死体には目もくれない。
真っ直ぐ目が合って、にこりと微笑みかけられた。本能から『敵である』と分かっているのに、殺意も敵意も感じなくて、どうして、という言葉だけが雪弥の中に浮かんでいた。
彼女の姿を認めてすぐ、蒼慶が「やはりな」と呟いて喉の奥で笑った。
「蒼緋蔵の分家・桃宮勝昭は、旧藤桜家、現在は桃宮家と呼ばれている名家の長女と婚姻を結んだ。名が変わったのは、藤桜家の中から『特殊な血筋の兆候』が現れる者がいなくなったとして『血の呪い』は絶えたとされたから――だったが、皮肉にも藤桜の血統を引く娘が誕生したか」