その直後、まるで何かに引っ張られるように、彼の身体が地下空間の闇に向かって引きずられ始めた。雪弥達は何が起こったのか分からず、巨大な柱の間で動きが止まるまでの間、その様子を茫然と目で追ってしまっていた。


「もう、あなたに用はないのよ」


 桃宮が苦痛の呻きを上げて四肢をよじる中、闇の中から、凛とした女性の声が上がった。

 闇の中から響き渡ったのは、一人の女性の声だった。

 身体を震わせながら、桃宮がどうにかといった様子で顔を上げた。見開いた目で数秒ほどそこを見つめると、続いて視点が定まらない目をこちらへと向けてくる。

 生気が失せたその顔を見て、雪弥は言葉を失った。彼は、もう助からない。それは致命傷を追わされた人間の、絶命前の光景だと経験から分かってしまった。

「わたし、には、か、ぞく、が」

 そう発した桃宮の口から、大量の血液が噴き出して声が途切れた。いびつな線を描くナニかが、暗闇から無数に突出したかと思うと、彼の身体を貫いて宙へと持ち上げたのだ。

 皮膚や筋肉を突き破る音が、地下空間内に響き渡った。その凶器は、まるで生きた植物の枝で――まさに、原始的な串刺し処刑のようである。