「……だといいんだが」

 駆け付けた蒼慶が、そう呟きながら、膝を折ったまま手を抱えている桃宮を見て小さく息を吐いた。そばにきた宵月が、同じように彼の無事を確認して「本当に、恐ろしい方です」と感心とも呆れとも取れない口調で言った。

 その時、桃宮がようやく顔を上げた。真っ直ぐ自分に銃口を向けている雪弥に気付くと、茫然としたように見つめ返した。その顔には、次第に恐れの色が浮かんだが、額に浮かんだ汗が頬を伝った拍子に、彼がハッと蒼慶へ目を向けた。

「た、頼む! その本を渡してくれッ! でないと、私の家族が――」
「先程も言ったが『人質に取られていた二人の家族』は、すでに殺されてしまっている。残酷だが、それが現実だ」
「そんなの嘘だ! 私はっ、私は確かに約束したんだ! それに『あの子』が、自分の母親と弟を殺すなんて、そんな事あるわけが――」

 不意に、話していた桃宮の言葉が途切れた。その身体がビクンっと震え、ぐらりと地面に崩れ落ちる。