「紗奈恵さんの息子である君を、こんな、こんな事に巻き込んでしまうだなんて」
「もう、死んでいるんだ、桃宮前当主」

 不意に、続く独白を遮るようにして、強めの声が上がった。

 桃宮がなんの事だか理解出来ない様子で、ふっと顔を上げた。数秒ほど置いて「確かに紗奈恵さんは亡くなったが」と、しどろもどろに口にした彼を見て、蒼慶が形のいい唇をもう一度動かして、こう言った。

「そうじゃない。残念ながら、――『あなたが人質に取られた「妻」と「末の息子」は、もう殺されてしまっている』んだ」

 私情の読めない普段の鋭い瞳を覗かせて、蒼慶は一語一語をはっきりと区切ってそう告げた。桃宮が両目を見開き、後退しかけた足をもつれさせながら「そんなはずはない」と狼狽する。

「そ、そんなはずはない、だって、彼らは私に」
「皆、もう死んだ。『先に殺された者達』のあと、あなたを乗せた車が旅館を出てから、妻と息子は殺されて床下に――」
「そんなの嘘だ! そんなはずはない!」

 目尻を潤ませた桃宮が、感情に任せるまま銃を持つ手に力を入れた。その指が反射的に引きがねを引き、大きな発砲音が上がる。