自分で怒鳴ったというのに、それにも衝撃を受けたのか、桃宮は強張った顔をして荒々しい呼吸を繰り返していた。足もぶるぶると震え出してしまっており、額には大量の脂汗が浮いている。

「慣れない事をするのは、さぞ苦しいだろう、桃宮前当主」
「!?」
「詳細を話せないのなら、どうしてこんな事をしているのかだけでも、訊いていいか」

 蒼慶が、続けて淡々と尋ねる。すると、桃宮が更に余裕を失った様子で「いいからッ、その本を渡してくれ!」と更に一歩踏み込んで、こちらに銃口を突きつけてきた。

 宵月が冷静さを装いながらも、いつ発砲されても対応が出来るよう、彼の次の行動を考えながら主人の前に構えた。それでもピクリとも反応せず、雪弥は開いた瞳孔で桃宮をじっと見つめていた。

 怪訝そうな顰め面を持ち上げて、蒼慶が「これでは、話にならんな」と小さく吐息をもらした。引き続き、普段の厳しさもない眼差しを向けて問う。

「お前がそのような行動に出なければならない理由は、本当の妻と、幼いもう一人の息子を、人質に取られているからか?」