雪弥は、戻ってきた兄の腕へと目を向けて、父も長いこと触っていなかったらしい、その埃まみれの大型本を眺めた。

「近くで見ると、更に歴史を感じるなあ……コレ、博物館物ですね」
「だろうな。世界で一冊しかない本だ」

 その時、不意に、松明の炎がわずかに違う揺れ方をした。

 それを察知した瞬間、雪弥は反射的に、蒼慶を庇うようにして前に立っていた。自分達が入ってきた出入り口の方を、開いた瞳孔で警戒したように見据える。

 普段の性格からは想像出来ないほど、ピンと張りつめた緊張を弟から察して、蒼慶が「どうした」と怪訝に問いかけた。数秒遅れて反応した宵月が、主人を守るように雪弥の後ろで体勢を整えながら「侵入者です」と、代わりに答えた。

「すごいですな。僅かな殺気を瞬時に察知するだけでなく、雪弥様は的確にその場所すらお当てになられた。お見事なものです」

 自分よりも遥かに早く反応した雪弥の後ろ姿を見つめ、宵月が呟いた。それを聞きながら、蒼慶は扉の方へと視線を向けたところで「――やはり来たか」と口の中に言葉を落とした。