「……宵月さん、乗せる前に言った台詞って、簡単に言っちゃえば脅しみたいなもんですよね」
「効果は十分でございましたでしょう、雪弥様」
「やっぱり脅しかよ。つか、なんで僕が兄さんの車に乗らなくちゃいけないんですか? そもそも、迎えに宵月さんを寄越すとも聞いていないんですけど」
「全ては蒼慶様のご命令です。今朝、迎えに行くようにとの指示を頂きましたので、こうして主人のおそばを離れ、わたくしがお迎えに上がりました」

 主人という言葉を聞いて、雪弥は運転する宵月をバックミラー越しに見やった。その辺はちっとも変わっていないなと思ったら、元々蒼緋蔵家の他の使用人達には、愛人の子として良く思われていないせいもあって、滅多に彼以外の迎えがなかった事も思い出した。

 そのせいかもしれない。そう解釈して、納得する事にした。

「宵月さんって、相変わらずですね」
「貴方様も、二年前とお変わりありませんね。わたくし達が、こうしてお会いするのも、緋菜様の成人式以来であるという事は、お分かりですか?」

 チラリと、バックミラー越しに宵月が視線を返してくる。雪弥は、はじめに挨拶するべきだった言葉があったと遅れて気付き、小さな苦笑を浮かべた。